杉岡幸徳の著作

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クジラは日本の伝統食ではない

'The Cove'がアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞したのを記念して、再掲します。

イルカ殺す場面収録した映画、米で論議

 【ロサンゼルス=飯田達人】日本の伝統的なイルカ漁で、漁師が多数のイルカを仕留めるシーンを収録した米ドキュメンタリー映画「入り江」(原題The Cove)がロサンゼルスとニューヨークで公開され、「むごい秘密が暴かれた」(米有力紙)などと論議を呼んでいる。(読売新聞)


まず、イルカとクジラは同じ種類で、体長5メートル以下のクジラをイルカと呼ぶだけ。
それはそれとして。

『世界奇食大全』(文春新書)にも書いたが、鯨食が日本の伝統的な食文化というのは、まあ大嘘である。

日本人がクジラ肉を日常的に食べ始めたのは、実に終戦後のことである。

それまでは、クジラは魚を連れてくるということで、神として崇め、クジラを食べるどころか、決して危害を加えない地域が、日本全国にあったのである。
これは、現代の欧米諸国とそっくりだ。

だいたい、古式の沿岸捕鯨では、一つの村につき、一年にせいぜい20頭くらいしかクジラは獲れない。
この量で、日本人全員が楽しくクジラを食するなんて、ありえない。
さらに、冷蔵庫もなく、車もなく、道路や橋すらまともにない時代に、新鮮なクジラ肉を全国津々浦々まで届けられるわけもない。

わが国でクジラが広く食べられ始めたのは、明治時代に「ノルウェー式」の遠洋捕鯨法が導入されてからだ。しかも、クジラに銛を打ち込むのはノルウェー人で、捕鯨船の乗組員はほとんどが朝鮮人。
こんなものが日本文化のはずがない。

また、明治時代に各地に捕鯨場がつくられた時、激しい反対運動が起こっているのだ。

中でも、青森県の三戸は熾烈だった。
一九一一年にここに東洋漁業会社が進出してきた時、地元民が蜂起し、捕鯨場を襲って焼き払ったのだ。この暴動で、死者と重軽傷者も出ている。
これは、クジラを獲ると血で海が汚染され、魚が獲れなくなるからという理由だった。日本人が昔からそんなにクジラ肉を愛していたなら、こんな事件が起こるわけがない。

つまり日本人は、一九四五年から、商業捕鯨が禁止された一九八六年まで、わずか四十年ほどしか、日常的にクジラを食べていないのだ。


伝統とか文化などというのは、たいていは詐欺師の言い草である。
あんまり信用しないほうがいい。

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